高松高等裁判所 昭和34年(く)6号 決定 1959年7月02日
少年 K子(昭一七・一〇・一生)
主文
原決定を取り消す。
本件を高知家庭裁判所に差し戻す。
理由
本件抗告の趣意は、記録中の法定代理人N作成名義の抗告申立書記載のとおりであるからこれを引用する。
論旨は要するに、原決定には少年審判規則第二十五条第二項第三十条に違反し、保護者である抗告人が審判期日に出席しその意見を述べる機会を失わしめた違法がある、というにあるので、案ずるに、記録を調査すれば、本件少年に対する虞犯保護事件につき、昭和三十四年四月十四日高知家庭裁判所において、保護者である抗告人の立会なくして審判が行われ、即日本件少年を中等少年院に送致する旨の決定が言渡されたこと及び抗告人に対しては右昭和三十四年四月十四日の審判期日に出頭され度い旨の審判期日呼出状が発送されたけれども、該呼出状は右審判期日の翌日である同月十五日に抗告人に送達されたことが明らかである。然らば、少年院送致を希望する旨抗告人の意見があらかじめ明らかにされているならば格別そうでないとすれば、原裁判所の審判手続には決定に影響を及ぼす法令の違反があるものといわざるをえない。記録を精査すれば、抗告人は本件少年を国家の矯正保護施設に収容する前に今一応他の矯正方法を工夫し度い念願であつたことが窺われるのであつて(記録添付の少年調査記録中昭和三十四年四月一日附家庭裁判所調査官補の調査報告書)もし本件審判期日において抗告人の意見を徴したならば、或は原決定と異なる結論を採るを妥当としたかも知れぬのであるから、論旨は結局理由がある。
よつて、少年法第三十三条第二項少年審判規則第五十条に従い原決定を取り消し、本件を高知家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 加藤謙二 裁判官 松永恒雄 裁判官 谷本益繁)
別紙 (原審の保護処分決定)
主文
少年を中等少年院に送致する。
当裁判所が昭和三三年六月一〇日になした少年を高知保護観察所の保護観察に付する旨の決定はこれを取消す。
理由
(虞犯事実)
第一性格及び環境
少年は、知能は正常である(新制田中B式によるI・Q、一〇六)が、性格面では意志薄弱、発揚、自己顕示性が顕著であり、独り子として両親に溺愛せられて生育しその間適切な躾を受けなかつたため、社会生活の規範が身についていない。少年は、現在父親と共に生活しているが、その住居は四畳半一間で、たんす、寝具一組等の外格別家具もなく一見して寒々とした家庭であり、加えて父親が飲酒を好み生活態度が放縦で少年に対して平素は溺愛放任的でありながら、何かあると強く叱責殴打するので、家庭に対して所属安定感を有していない。そして少年には不良の友人が多く、その具体的詳細については正確に把握し難い面もあるが、その数は男女含めて約三五名に及びその中男友達約一五、六人の半数とは性的交渉をしたことがあるという状態である。
第二虞犯事由
少年は、母親が昭和三一年一二月八日病死して後父親が特飲街に出入してこれを放任したため、その頃から不良交友の非行に走り始め、遂に昭和三三年一月一〇日当庁において、「昭和三二年三月下旬頃○○市内の旅館において男子高校生と淫行した外その頃から同年一〇月一二日頃迄の間約一〇名の不良少年と不純異性交遊した。」との虞犯事由により、高知県立中央児童相談所長に送致せられ、児童福祉司の指導に付せられたが、その効なく不良行為が再発したため、昭和三三年六月一〇日再び当庁において、「昭和三三年五月一二日頃から家出し、同じく自宅の現金四〇、〇〇〇円を拐帯家出中の男子高校生と○○市内の旅館に宿泊し、又同人と大阪に逃走することを企てた。」との虞犯事由により、高知保護観察所の保護観察に付せられたのであるが、保護観察開始以来数回に亘つて保護司から堅実な職場の斡旋を受けたにも拘らず首肯し得べき理由もなくこれに応ぜずして無為徒食し、昭和三三年一〇月下旬近隣の者の世話により大阪市○区×××△丁目○食品株式会社に就職したが一ヶ月余で退職帰高し、一〇日間位で退職したが同年一二月○○市××の「○○○○茶房」という不良の溜り場になつている喫茶店の店員となり、同年クリスマス頃から翌年正月にかけて不良少年、不良少女と盛んに交友し、その頃不良に衣類を奪われて高知保護観察所に救護を求めて来たので、同所において就職を条件にオーバーを支給し、その後就職のため少年を呼び出したにも拘らず、正当な理由なくこれに応ぜず、昭和三四年二月一〇日頃「高知県安芸郡奈半利町にいる祖母が死んだから旅費が要る。」と虚構の事実を述べ、その旨誤信した○○女子大学生R子から金二〇〇円を借り受けてこれを返済せず、保護観察開始以来本年三月七日頃迄の間に約二〇回に亘つて父親の金合計七八、〇〇〇円位を無断で自宅から持ち出し、その間夜昼となく○○市内を遊び廻り喫煙したり、飲酒したり、喫茶店に出入したり、男友達と性交渉をしたりする非行を続け、本年三月七日素行不良のS子(当一九年)から「大阪南区心斉橋のミツヤ株式会社というレストラン喫茶に就職を世話してやる。今から直ぐ一緒に大阪に行こう。」と誘われてその言を軽信し、父親の承諾も得ず僅か四〇〇円程度の金しか所持していなかつたのにそのまま同女に同行し上阪し、同女から就職の斡旋を受けられないままにこれと共に大阪市○○区××××町にある○○造船所の船員宿泊所に赴き、同所二三号室において船員T(当二〇年位)と約一週間に亘つて宿泊しその間右T及びその友人等と共に大阪市○区の「ピース」というバーでハイボール等九杯を飲む等自己の徳性を害する行為をする性癖を有するものである。
第三結論
右の虞犯事由を前記の性格及び環境に照して考えると、少年には将来罪を犯す虞れがあると看るのが相当である。
(措置)
右虞犯事実の内容を仔細に検討すると、少年の健全な育成のためには、その不良交友の関係を断絶させ、規則正しい勤労生活により勤労の意欲を喚起させ、厳重な躾教育を実施して社会生活の規範を身につけさせることが最大の急務であると考えられるので、その目的を達するため、この際少年は中等少年院に送致するのが相当であり、当庁が昭和三三年六月一〇日になした「少年を高知保護観察所の保護観察に付する。」旨の決定は右保護処分と競合するので、これを取り消すべきである。
なお、当裁判所としては、家庭に暖かいふん囲気がないため、少年がこれに対し所属安定感を有しないことがその度重なる非行の重要原因であることを考えると、関係機関において、少年が少年院を退院した際安定した生活ができる様、父親に対して精神的物質的に現在の家庭のふん囲気を一新し、これを暖い愛情に満ちたものにする様適切な指導をされること。又父親に対するその指導の効果について多くを期待し得ないならば、これに代わる適当な社会資源の開拓について特別の配慮を払われることを希望する。
よつて少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項後段、少年院法第二条第一項、第三項、少年法第二七条第二項に則つて主文のとおり判決する。(昭和三四年四月一四日 高知家庭裁判所 裁判官 阿蘇成人)